年が明けて、急に寒くなった。
それまで暑がりな三井には、合い物のコートで充分だったのだが、さすがに最高気温が一桁台の真ん中あたりの日が続くと、ちゃんとした冬物が欲しくなる。
(まぁバイト代も入ったしな)
体育会系の大学生には、休みなんてものはほとんどない。だが、年末年始だけは数少ない例外に含まれていた。年が明けてからの日々を少しでも優雅に過ごそうと、三井と土屋は、年末から元旦にかけての「ド短期バイト」に精を出したのだ。年越しカウントダウンの瞬間も、もちろん働き通し。しかしそのおかげで、多少のまとまった額を手にすることが出来ていた。しかも、元旦の日には田舎から出て来た土屋の祖母のおかげで、予想外の「お年玉」までゲットできてしまった。
「…ちゅーか、なんで三井の方が額大きいねん…」
土屋は、まだちょっとばかり拗ねているらしい。土屋の趣味に合わせて、行きつけのショップに買い物に来ていた。しかし、三井贔屓の祖母が、金額に差をつけたのが気に食わなかったらしい。
「しょーがねぇだろ、ばーちゃんオレのこと好きなんだからよ」
三井はこれで結構、年上のおばさまやお姉さま方にモテるのだ。もちろん、祖母が土屋のことを好きでない訳ではないと思うのだが、実のところ似たもの同士な二人は、何かにつけていがみ合っているフリをする。今回も、三井の方が高額だったのは土屋に対するあてつけの意味でしかないはずだ。結局、余ってしまえば二人でメシでも食うくらいしか使い道がない。そんな彼らの行動パターンは、きっちり把握されている。
「…あーあ…三井も冷たいもんなぁ…」
そんなことをブツブツ言いながら、土屋はジャケットを漁っている。好きなミリタリーブランドの新作が出ているそうなのだが、タイミングを外してしまったせいで、希望のブツが見つからないようだ。
「冷たいつったってよ」
「年明けてからこっち、チューしかしてへんやん…」
ぼそりと呟かれて、思わず固まりそうになる。幸いというべきか、周囲には初売りに熱狂するマニアばかりで、誰も他人の会話なんて聞いちゃいないらしかった。
「だからっ!そーいう言い方やめろって!」
こそこそと、けれど内心非常に焦りながら、三井は土屋の手首を掴む。しかし土屋は知らぬ素振りで、カーキ色の群れを漁り続ける。
(ったく…このヤロウ…!)
三井も、決してこの手のカジュアルは嫌いじゃない。だが、土屋ほど熱心に探す気もなく、何となく目に付くハンガーの列を数枚めくったところで飽きてしまうのだ。そもそも土屋だって、初売りだとかバーゲンだとか、そんなのは嫌いなはずなのだ。だが、今日買いに来なければ後がない。すぐに練習が始まってしまうし、目当てのものが売切れてしまう可能性も大らしい。
(まぁ…そりゃいいけどさ…)
三井も、自分が好きなものについては、結構ハマりこんでしまう方だ。気持ちは分からなくもない。だが、やはり好みの違いというのはあるもので。
(いいのが見つかったら、オレもここで済ましちまっていいんだけど)
何軒も練り歩くのは疲れる。そう思っていたら、隣の列に移動していた土屋が、歩み寄って来て三井の手を引いた。
「なに?」
「ちょお、コレコレ」
声から、嬉しさが滲み出ている。どうやら――求めるブツを探し当てたらしい。
「これか? 言ってたヤツ」
「そ。さっきから全然見つかれへんかったから、もうあかんか思た」
サイズを確かめて、二回大きく頷き。間違いなく、第一希望だったようだ。
「とりあえず、試着してみろよ」
促がせば、もちろん土屋も大層乗り気。三井の差し出す手にバッグを預け、来ているジャケットを脱いでそれに袖を通す。
「へぇ、いいんじゃね?」
ショート丈のフライトジャケットだが、ヴィンテージ風の加工がしてあるらしい。そこはかとなく色褪せたような風合いが、確かに渋くてカッコいい。
「これがまた、分厚うてぬくいねん。ボアもついてるしな」
毛足の長めなフェイクファーが襟のところについていて、取り外しもできるタイプだ。土屋は細身だが、そこそこ肩幅もある。こういうデザインは結構ハマるだろう。
「いーじゃん。探してたヤツなんだろ。買っちまえよ」
「おう」
もちろん、と言わんばかりに土屋は、すでに財布を握り締めている。こんな風に、目をきらきらさせた土屋なんて初めて見た。微笑ましいというのか何と言うのか、思わず可愛いとさえ感じてしまったほどだ。
(いつもこうならいーのに)
三井の揚げ足を取ったり、言葉尻を掴まえて遊びたがるような姿は、今はなりを潜めている。
(や、別に普段がイヤな訳じゃねぇけど)
あんまり意地の悪いことを言われればムカつくが、あんまり殊勝な姿ばかりでも気が抜ける。いつも通りの土屋が、三井はいちばん好きかもしれない。ただ、自分の知らない顔を知るたび、新鮮なような嬉しいような、それでいてちょっと悔しいような気持ちに陥るのだ。
(いやいやいや、好きとかじゃなくって!)
今更自分の独白にツッコミを入れることもないのだが、素直に認めるのはまだ恥ずかしすぎる。ただでさえ、土屋の恥ずかしい物言いに、次第に慣らされてしまっている気がして怖いのだ。とりあえず、表向きはマトモで居たい。
(って、別にマトモじゃねぇとか思ってるワケじゃなくて…)
いそいそとレジへ向かう土屋の後姿を見ながら、ぐるぐると堂々巡りする思考が止まらない。
世間で言う「つきあっている」状態になって、一年と少しが経つ。
単なる親友でチームメイトだったはずのヤツが、気が付けばそれ以上の存在になっていた。最初は、まんまと陥れられたような気がしないでもなかった。だが、ことあるごとに自分の気持ちを思い知らされ、いつの間にやら土屋のばーちゃんにまで紹介されていて、なんだかすっかり後戻りできないところまで踏み出してしまっている気がする。
(これが…イヤじゃねぇから困ンだよな…)
女が嫌いなワケではまったくない。しかし、他の誰かと居るよりも、土屋と居る時間の方にかけがえのなさを感じている。
あーあ、とため息をつきながら、何気なくロングコートのあたりを物色してゆく。それでも厚手のものは要らない。さっきまで、自分のを探しながら土屋が勧めて来たのは、ことごとく「極寒地仕様」のモコモコ系だった。フードにボアがついたデザイン自体は、悪くないと思う。だが自分が着ることを考えれば、インナーに半袖Tシャツくらいしか選べないのではないかと思ったのだ。
(つーか、おまえが着ろよって感じだよな)
寒がりの土屋なら、ちょうどいいだろう。そう思って返したのだが、土屋としては、どうしても最初に狙いをつけていたヴィンテージ仕様のフライトジャケットがいいらしい。さすがに両方買える金がないから、三井に薦めたのかもしれない。
(そりゃ、共有できねーこたねぇからな)
サイズとしては、大幅な違いはない。三井が買ったものを、勝手に土屋が着ていることも結構あるのだ。もちろん逆もあるから基本的には文句は言わないが、ごくたまに着たい時が被ると言い争いになる。
(あっ、これいいじゃん)
そんなことを考えながらも、とりあえず手は止めない。
ふと三井の目にとまったのは、薄手のロングコートだった。サイドが編み上げで絞れるようになっている。ぴったりめのデザインだから、下にも着込むタイプの土屋には、今の時季は無理だろう。軽く羽織ってみれば、着心地もいい感じだ。ライナーにウールが使われているから、薄くて軽いが寒くない。
(あいつが着てぇんなら、春になってから着りゃいーんだよな)
その頃すでに、三井には着れない。だったら丁度いいと思って、三井もこれを買うことに決めた。実用性とデザイン、二人とも両方にそこそここだわる方だと思うし、趣味の傾向はかけ離れては居ない。だが、それでも実際買ってみると、こうまで被らないのも珍しい。
「おし、コレに決めた」
いくら土屋の頼みでも、基本的に着るのは三井だ。自分の好みというヤツは譲れない。
そう思って三井も、掘り出し物を手にレジへと向かった。土屋があとでグダグダ言ったところで、聞く耳は持たないというヤツだ。
いつも苛められている男への、ささやかな意趣返し。
心の中でちょっとばかりそんなことを思いながら、三井はほくそ笑んだ。
◆
「なんでこんな薄っぺたいコートやねんなー!」
早速着てみたのに対して、土屋はこんなことを言いやがった。
「…なんでって。オレが暑がりなの知ってんだろ…」
土屋ももちろん、早速分厚いフライトジャケットを着ている。服を買った後もあちこち歩き回って、結構くたびれた。だから、帰り道に見つけた公園で、ちょっと休憩していた時のこと。
「ちゅーか、こんなとこでそんなん着て寒ないなんか信じられへんわ」
公園とは言っても、大したものではない。もちろん屋外で、日は出ているが雪までチラついて来た頃だ。周りに人影がなくて、三井にはのんびりできて丁度いいと思うくらいだが、土屋には厳しいのだろう。
「でもフードもついてんぜ? おまえこーいうの好きだろ?」
取り外しができるフードがあって、その縁にはささやかだがボアがついている。デザイン的には、土屋の好みからも外れていないと思う。どうせ春になれば、貸して、と言って来るに決まっている。そう思ったから、こんなことを言ったのだけれど。
「いや…まぁ、そのフードとかふちのフワフワはええねん」
「だったら何がダメなんだよ。言っとくけど、暑いのはヤなんだからな」
だからモコモコは着ない。そう言外に言う。土屋のジャケットが、それ自体充分にモコモコしている。いや、着膨れしている風には見えないが、三井が普段着ているものから比べれば、「重装備」と言って差し支えない。
「そらまぁな…あんましモコモコやっても困るけどな…」
俯き加減で土屋は、心底困ったような顔をした。しかし、何がそんなに困るのか、三井には理解できなかった。
「困るって、何が?」
折りしも、ちょうど土屋に背を向けて、歩き出そうとしていた時だった。
背後から、無言で伸びて来た腕が、三井の肩を掴まえる。
「困るわ」
「…おい、何やって…っ」
後ろから抱きすくめられるような体勢で、身動きを阻まれる。
「せやかて、そのフワフワ可愛すぎるわ…この上モコモコやってみぃ。オレ理性に自信ないわ」
「はぁ?」
言っている意味が、一瞬よく分からなかった。 だが、次の瞬間の土屋の行動を見て、忘れていた事実を思い出したのだ。
そして、更に続けられた言葉が、それを裏付ける。
「ただでさえ、このボア可愛いやん。しかもおまえが着てんねんで…。モコモコやったりしたら、もうオレたまらん…っ!」
「……――」
背中から抱きしめたまま、三井のコートのフードに頬ずり。
いや、正確にはフードについたボア――土屋の言うところの「フワフワ」に。
(ああ、そうだったよ…)
すっかり忘れていたが、この男は実は、着ぐるみ・ぬいぐるみ系に目がないのだ。
このナリで、このキャラで、どう考えてもサギだろ!と声を大にして言いたいのだが、誰に言っても信用してもらえない。それもそのはず、三井と二人きりの時以外は、土屋も必死の努力でもって、この「可愛いもの好き」の性癖をセーブしているらしいからだ。
(一体、このクールぶったヤツのどこから、こんな言動が出て来るって思うんだよ…)
三井だって、ついぞ考えたこともなかった。
しかし、つきあいが深くなるにつれ、土屋が三井には隠す努力を放棄し始めていることに気が付いてゆく。
バラエティショップの前を通れば、ふらふらと吸い寄せられるように入ってしまい、いつの間にやら新作のぬいぐるみを紙袋一杯に購入している。
ゲーセンでクレーンゲームでもあろうものなら、誰かのためではなく紛れもなく自分のために、数え切れないほどの小銭を費やし、そして驚くべき数の獲物をゲットして帰ろうとする。 おかげで、というべきか、つきあいというのは大したもので。 鼠の国も鼠の海もハリウッド映画のテーマパークも、三井までもが年間パスを買うハメになっている。にんまり笑う猫型バスのもふもふにも、もう何度も触りに行った。
「三井ぃ…」
情けない声が、名前を呼ぶ。
オレが好きになったのは、こんなカッコ悪い男じゃない。
そう思っていたはずなのだが、なぜだか口元が緩んでしまうのを自覚する。
(なんだよコイツはよ!)
おそらく半分くらいは、三井の反応を予測してわざとやっている。
だが、このバカみたいに甘えた声を出すのも、この男の「素」の部分なのは事実。
(てめぇのが可愛いっつーの!)
どこの着ぐるみよりぬいぐるみより、絶対土屋の方が可愛い。
さらさらの髪は蜂蜜色で、とろけそうな甘い彩を宿している。
こんなたとえを思いついてしまうあたり、三井もかなり毒されてしまっているのかもしれない。 そもそも、ぬいぐるみなんかを買って部屋に置きたいかどうかは別として、ふわふわした可愛いものというのは、三井とて嫌いな方ではない。ただ、自分から進んで接触しようとは思いもよらなかっただけだ。 それが土屋に引っ張られり回されているうちに、いつしか耐性が出来た。大の男が、かわいいものに目尻を下げていたとしても、あまり違和感を覚えなくなってしまったのだ。
――というか、自分もその一員になってしまっている。
こんなのは本当は、甚だしく不本意なのだが、今となってはどうしようもない。
土屋を好きだというのと同じで、気が付いた時には、もう引き返せないところまで来てしまっていた。
(ちくしょうめ)
でも、こんなヤツに影響されていると知られるのも、こんなヤツを可愛いと思ってしまっているのも、絶対に絶対に知られたくない。普段振り回されている分だけ、せめて少しでも優位に立てる部分があるなら、それを守り通したいのだ。
(けどな)
胸の前で交差された土屋の腕が、ぎゅっと三井をかき抱く。
こんな風に、情けない土屋を見るのは嫌いじゃない。自分の前でだけ、それが晒されるのだと思えば気分もいい。
(くっそ!)
結局のところ「かわいいもの」に弱いのは自分もなのだ。
そしてこの男をかわいいと思ってしまうくらいには、病が深いのも充分承知の上だ。
腹が立つけれど、抗えない。
下ろしていた手を持ち上げて、目の前にある土屋の腕を外させる。
「三井?」
戸惑う土屋の声は無視。そのまま身体の向きを入れ替えて、正面から向き直る。
(誰も…見てねぇ、よな?)
一瞬だけ、周囲に走らせる視線。上手い具合に誰も居ない。相変わらず雪がぱらついていて、土屋の髪に落ちては静かに溶けて消えてゆく。
「あーあ、もう。雪いっぱいつけちまってよ」
せっかくの新品が泣くぜ、と言いながら、肩の雪を払ってやった。だが、頭に乗っているものには手を触れない。
「…ああ、ごめん」
せやな、と土屋は小さく笑った。この笑顔は、別に可愛くない。なのにどういう訳だか、視線が奪われてしまう。
「ほら、ここも落ちてるだろ」
そう言いながら、ひとふさ金茶の髪を手のひらにすくい取った。
滑り落ちて来る雫を指で受け止め、そこに唇を押し当てる。
我ながら、気障な仕草だ。こいつがやりそうだな、と思ったのを演じてみただけ。それだけで、あまりのクサさに恥ずかしくなったけれど。
「…三井、」
上目で見るのは、計算ずく。
こいつが海千山千なのは、誰よりも自分がいちばんよく知っている。こんな切なげな瞳になんて、騙される三井ではない。
それなのに。
分かっているのに、また「かわいい」だなんて思ってしまう自分が憎い。
「くそ、もうダメだっっ」
緩んでしまう顔を、これ以上セーブできない。だからそれを見られたくなくて、最終手段に出た。
「え…なに?」
これも本当は多分、分かっててやっているのだ。けれどそれでも、構っている余裕はない。理性に自信がないのは、よっぽど三井の方だ。
土屋の背に腕を回し、ぎゅっと強く抱きしめた。ついさっきまで、自分がそうされていたのと同じように。
「バカヤロウ、さっきの言葉、そっくりそのまま返してやるっつーの!」
「へ?」
「オレだって理性に自信ねぇ…っ」
ああもうほんとに、この髪に頬ずりしてやりたい。
よくよく見れば、この襟についているボアだって、かわいいような気になってしまうから不思議だ。
「…三井、」
土屋の手が、背に回されて抱き返して来る。
がしかし、結局のところ、最後の最後で三井は、土屋を突き放してしまった。
肩口に顔を埋めた瞬間、どうにも別の意味で我慢できなくなったからだ。
何故ならば。
「くしゅん、くしゅん、へくしょーん!」
思わず、マンガに出てきそうなくしゃみを三連発。
そう、鼻の下をくすぐるモノに反応してしまった。土屋の襟についているボアだった。
この気持ちよさそうなもふもふが、どうやら実はクセモノだったらしい。
「あれ、どないしたん三井?」
こともあろうに土屋は、しれっと言う。
「おい…これっ…?! こんなトコになんでこんなのがついてんだよっ」
そんなのはデザインだと言われてしまえばそれまでだ。
しかし、土屋の返して来た言葉は、三井の予想とは少し違っていた。
「ほんまやったら、コヨーテの毛がついてんねん。防寒にええねんて。けど、動物愛護のなんたらがあるから、これは合成ものやねんで」
「…コヨーテ…っすか…」
想像したら、また更にくしゃみが出そうになった。動物アレルギーはないのだが、こんな形になるとマズイらしい。
しかしそんな三井をよそに「ほんまもんの方が、防寒度は高いらしいわ」などと土屋は薀蓄を披露。
にこにこと嬉しそうな笑みは、それでもやっぱり腹立たしいほどに可愛かった。
こんな話を聞いてさえ、いわゆる「ドン引き」で遠くに走り去りたい衝動よりも、この気持ちが勝るほどには。
それがどうかしたのか、と言いたげに土屋は見上げて来る。
身長は同じか、土屋の方が高いくらいなのに、上手い具合に小首を傾げて、こんな表情をできるこいつは骨の髄まで詐欺師だと思うけれど。
とりあえず心の準備をしてから、三井はもう一度土屋をぎゅっと抱きしめた。
(…うわ…)
顎のあたりをくすぐるフェイクファーを、どうにか必死で避ける。
「三井はかわいいなぁ」
喉を慣らして土屋が、くつくつと笑っている。その拍子に、揺れる毛が鼻の下まで届こうとしている。
(こいつ、絶対わざとだろ!)
そう思ったけれど、まんまとしてやられるのは嫌だった。だからそれでも抱きしめる腕だけは、離そうとはしなかった。
それが何より土屋の思う壺なのだと、気がついたのは五分ほどしてからだった。
あまりのカッコ悪さに暴れたが、時すでに遅し。
鮮やかに笑う土屋の表情から、やっぱり目が離せないと思った。
けれど、目を眇めた土屋が、次の瞬間にその気持ちと同じ言葉を紡ぐことは、すでに予測のうちだった。
冷たい風が心地よく、頬を過ぎてゆく。
寒がりな土屋が身を寄せて来るのも、予想通り。
とりあえず今回だけは振り払わないでいてやろうと、こっそり三井は考える。
舞い降りる雪は、もうすっかり止んでいた。
Das Ende
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